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東京地方裁判所 平成8年(ワ)1220号 判決 1996年12月04日

原告

後藤洋

ほか四名

被告

谷田部義明

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告後藤洋に対し、金二一四九万九〇四四円及び内金一九五九万九〇四四円に対する平成七年二月二二日から、内金一九〇万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告後藤友宏及び同後藤和也に対し、それぞれ金一一四九万九五二一円及び内金一〇四九万九五二一円に対する平成七年二月二二日から、内金一〇〇万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、各自、原告須貝金吉及び同須貝タイに対し、それぞれ金七七万円及び内金七〇万円に対する平成七年二月二二日から、内金七万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、各自、原告後藤洋(以下「原告洋」という。)に対し、金三六二六万六〇八一円及び内金三三二六万六〇八一円に対する平成七年二月二二日から、内金三〇〇万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告後藤友宏(以下「原告友宏」という。)及び同後藤和也(以下「原告和也」という。)に対し、それぞれ金一七三八万三〇四一円及び内金一五八八万三〇四一円に対する平成七年二月二二日から、内金一五〇万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、各自、原告須貝金吉(以下「原告金吉」という。)及び同須貝タイ(以下「原告タイ」という。)に対し、それぞれ金一一〇万円及び内金一〇〇万円に対する平成七年二月二二日から、内金一〇万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要(当事者間に争いがない)

一  本件事故の発生

1  事故日時 平成七年二月二二日午後五時四〇分ころ

2  事故現場 東京都八王子市めじろ台一丁目三三番地の一一先交差点(以下「本件交差点」という。)

3  被告車 普通貨物自動車

運転者 被告谷田部義明(以下「被告谷田部」という。)

所有者 被告信陽特殊食品株式会社(以下「被告会社」という。)

4  事故態様 被告谷田部が、被告車を運転して本件交差点を直進するために進入したところ、自転車に乗つた訴外後藤ミサ子(以下「訴外ミサ子」という。)が右方から本件交差点に直進して進入してきたため、訴外ミサ子と被告車が衝突し、訴外みさ子は平成七年二月二四日死亡した。

二  責任原因

1  被告谷田部

本件交差点は信号機によつて交通整理が行われておらず、右方の見通しが悪つたのであるから、右方を注視し、かつ、徐行して本件交差点に進入すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて被告車を進行させた過失によつて本件事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により、原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。

2  被告会社

被告会社は、被告車を所有して、運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

三  相続等

1  原告洋は訴外ミサ子の夫、原告友宏及び同和也は同人の子であり、唯一の相続人であるから、原告洋は二分の一、原告友宏及び同和也はそれぞれ四分の一ずつ、それぞれ訴外ミサ子の損害賠償請求権を相続した。

2  原告金吉及び同タイは、訴外ミサ子の両親であるから、民法七一一条により、被告らは、原告金吉及び同タイに対して、その損害を賠償する義務を負う。

第三損害額の算定

一  訴外ミサ子の損害

1  治療費 一九一万四八四〇円

当事者間に争いがない。

2  入院雑費 三九〇〇円

甲一、原告洋本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、訴外ミサ子は、本件事故によつて三日間入院して治療を受けたことが認められるところ、右入院期間中に雑費として、経験則上一日当たり一三〇〇円を要したと認められる。

3  入院付添費 一万八〇〇〇円

甲一、原告洋本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、訴外ミサ子は、右入院期間中、付添看護を要したと認められること、右の期間中、夫の原告洋が付添看護をしたことが認められるところ、付添費用として、経験則上一日当たり六〇〇〇円を要したと認められる。

4  葬儀費 一二〇万円

経験則上、葬儀費として一二〇万円を要したと認められる。

5  逸失利益 三六七七万五三七一円

訴外ミサ子は、主婦で家事に従事していたので、その労働の対価は賃金センサス平成六年第一巻第一表女子労働者学歴計平均の三二四万四四〇〇円に相当すると解すべきである。訴外ミサ子は、本件事故時三三歳であつたので、本件事故によつて、労働可能な年齢である六七歳まで三四年間の得べかりし利益を喪失したものと認められる。したがつて、訴外ミサ子の逸失利益は、右の三二四万四四〇〇円に、生活費を三〇パーセント控除し、三四年間のライプニツツ係数一六・一九二九を乗じた額である金三六七七万五三七一円と認められる(円未満切り捨て、以下、同様。)。

6  慰謝料 一四〇〇万円

本件事故の態様、訴外ミサ子の生活状況、家庭環境等、証拠上認められる諸事情に鑑みると、本件における訴外ミサ子の慰謝料は一四〇〇万円が相当と認められる。

7  合計 五三九一万二一一一円

8  既払金 一九一万四八四〇円

被告らが治療費として一九一万四八四〇円を支払つた事実は当事者間に争いがない。

9  損害残額 五一九九万七二七一円

10  相続

原告洋は二分の一、原告友宏及び同和也はそれぞれ四分の一ずつ、それぞれ訴外ミサ子の損害賠償請求権を相続したので、原告洋、同友宏及び同和也の相続した損害額は、左記のとおりとなる。

(一) 原告 洋二五九九万八六三五円

(二) 原告友宏及び同和也 各一二九九万九三一七円

二  原告ら固有の慰謝料

本件事故の態様、家庭環境等、証拠上認められる諸事情に鑑みると、本件における原告ら固有の慰謝料は左記のとおりと認められる。

1  原告洋、同友宏及び同和也 各二〇〇万円

2  原告金吉及び同タイ 各一〇〇万円

三  原告らの損害合計

1  原告洋 二七九九万八六三五円

2  原告友宏及び同和也 各一四九九万九三一七円

3  原告金吉及び同タイ 各一〇〇万円

四  過失相殺

1  当事者の主張等

被告らは、本件においては、訴外ミサ子にも、左方不注視、一時停止義務違反、自転車として高速度である時速約一五キロメートルでの走行という考慮すべき過失が存在するので、本件では、その損害から五〇パーセントを過失相殺すべきであると主張するのに対し、原告は、これを争つている。

2  当裁判所の判断

(一) 争いのない事実、甲二、三、乙一ないし一二及び被告谷田部義明本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 本件事故現場は、被告車の進行してきた北東に走る市道(以下「被告路」という。)と訴外ミサ子の進行してきた北西に走る市道(以下「ミサ子路」という。)が交差する信号機による交通整理の行われていない交差点である。被告路は、道路の幅員が七・八メートルで、歩車道の区分はないが、両側端からそれぞれ一・二五メートルのところに白色の実線で路側帯がもうけられ、白色の破線で中央線が表示されている片側一車線のアスフアルトで舗装された道路であつて、速度は毎時三〇キロメートルに規制されている。ミサ子路は、道路の幅員は五・八三メートル、両側端からそれぞれ〇・九メートルのところに白色の実線で路側帯がもうけられ、歩道車の区分及び中央線の表示がないアスフアルトで舗装された道路であつて、速度は毎時三〇キロメートルに規制されて、かつ、ミサ子路から本件交差点に進入する車両に対する一時停止の規制が行われている。被告路及びミサ子路共に、本件事故現場付近では直線であり、前方の視界は良好であるが、本件事故現場付近は市街地であり、被告路から見てミサ子路側の角には民家が建つており、被告路から見てミサ子路側は、肉眼では、本件交差点の被告車の進行してきた側端より一五・三メートルの地点からミサ子路側端より一・九メートルの地点、同一二・四メートルの地点から同二・七メートルの地点、同八メートルの地点から同四・七メートルの地点がそれぞれ見通すことができる。また、本件交差点の入口側左角にはカーブミラーが設置されており、そのカーブミラーを使用すると、本件交差点の被告車の進行してきた側端より一五・三メートルの地点から、ミサ子路側端より約一二メートルの地点を見通すことができる。他方、ミサ子路からは、ミサ子路の角より被告路側約一四三・八五メートルの地点をミサ子路の角より三・八メートルの地点からは九・二メートルの地点がそれぞれ見通すことができる。本件事故時の交通量は閑散としていた。

(2) 被告谷田部は、被告車を運転し、時速約四〇キロメートルで本件現場付近にいたり、前方約三〇メートルの地点に本件交差点があることを認め、本件交差点が左右の見通し悪い交差点であることを確認したが、同交差点を直進しようとする際、本件交差点入口左側に設置されたカーブミラーを一瞥しただけで右方のミサ子路から進入してくる車両等の確認を十分には行わず、かつ、前照灯をいわゆるパツシングしただけで、徐行をせず、制限速度を上回る時速約三五キロメートルに減速しただけで、本件交差点に進入しようとしたところ、本件交差点手前約一三メートルの地点で右前方約一五メートルの地点にミサ子路から本件交差点に進入してくる自転車に乗つた訴外ミサ子を発見し、急ブレーキをかけたが及ばず、被告車を約一三・六メートル進行させた本件交差点内で、五・四メートル進行して本件交差点内に進入してきた訴外ミサ子に被告車を衝突させた。

一方、訴外ミサ子は、ミサ子路から本件交差点内に進入する際、左方を十分に注視しなかつたため、左前方約一五メートルの地点の被告路上を本件交差点に向けて進行してくる被告車を発見できず、そのまま本件交差点内に進行した結果、被告車と衝突した。

(3) 被告らは、訴外ミサ子は、本件交差点に進入する際一時停止をしないまま本件交差点に進入したと主張する。確かに、訴外ミサ子が一時停止をしないまま本件交差点に進入した可能性は否定できないが、被告谷田部は、訴外ミサ子が一時停止をしないまま本件交差点に進入してきたことを確認したものではないこと、被告谷田部が訴外ミサ子を発見した地点から衝突地点までの距離と被告車の進行状況から逆算される訴外ミサ子の自転車の速度は約一〇ないし一五キロメートル程度であり、一時停止標識から衝突地点までの距離が一〇メートル弱であることを考慮しても、訴外ミサ子が一時停止後本件交差点に進入したとの事実と矛盾はしないことを考えあわせると、訴外ミサ子が一時停止をしないまま本件交差点に進入したと断定することはできない。

(二) 以上、認定した事実によれば、訴外ミサ子にも左方不注視の過失があつたと認められる。他方、市街地内にあり、信号機による交通整理が行われておらず、かつ見通しの悪い本件交差点に進入する際に、右方を十分に注視しなかつたのみならず、前照灯をいわゆるパツシングしただけで、徐行せず、かつ十分に減速することもなく本件交差点に進入した被告の運転態度は、交通安全に対する意識が極めて脆弱と言わざるを得ず、その過失は悪質と言わなければならない。かかる本件事故の態様、訴外ミサ子、被告谷田部双方の過失の態様に鑑みると、本件では、原告らの損害から三割を減殺するのが相当である。

3  以上の次第で原告らの損害額は左記のとおりと認められる。

(一) 原告 洋 一九五九万九〇四四円

(二) 原告友宏及び同和也 各一〇四九万九五二一円

(三) 原告金吉及び同タイ 各七〇万円

五  弁護士費用

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は左記のとおりと認められる。

1  原告 洋 一九〇万円

2  原告友宏及び同和也 各一〇〇万円

3  原告金吉及び同タイ 各七万円

六  合計

以上の次第で、原告らの損害額は左記のとおりと認められる。なお、原告らは、弁護士費用については本訴状送達の日の翌日である平成八年二月一〇日から、弁護士費を除く損害については不法行為の日である平成七年二月二二日から、それぞれ支払済みまで民事法定の遅延損害金の支払を求めているので、前記四3の各損害については平成七年二月二二日から、右五の各損害については平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を認容する。

1  原告 洋 二一四九万九〇四四円

2  原告友宏及び同和也 各一一四九万九五二一円

3  原告金吉及び同タイ 各七七万円

第四結論

以上の次第で、原告洋の請求は、被告らに対し、各自、金二一四九万九〇四四円及び内金一九五九万九〇四四円に対する平成七年二月二二日から、内金一九〇万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で、原告友宏及び同和也の請求は、被告らに対し、各自、それぞれ金一一四九万九五二一円及び内金一〇四九万九五二一円に対する平成七年二月二二日から、内金一〇〇万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で、原告金吉及び同タイの請求は、被告らに対し、各自、それぞれ金七七万円及び内金七〇万円に対する平成七年二月二二日から、内金七万円に対する平成八年二月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるが、その余の各請求はいずれも理由がない。

(裁判官 堺充廣)

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